№4911 「塔」12月号陽の当たらない名歌選その1

      「塔」12月号陽の当たらない名歌選その1

万博のあった年だと思ひだすだらうか娘が家を出てゆく 竹下文子
死ぬことより死ねないことを怖れゐる母と銀座でランチをしをり 黒瀬圭子
老いた母入院したるその部屋が終の住処となるを覚悟する ドラゴンゲン

ゆく秋は馬の背中をわたる風 たてがみのごとき雲をのこして 千葉優作
バスを待つ角度がいつもおんなじで肘にあたりにある日焼けあと 浅野美紗子
おりおりに言われしことば「あなたでは話にならぬ」また言われおり 垣野俊一郎
深い深い思考に入ってゆく我は傍(はた)から見れば埴輪のようだ 北山純子
ふるさとは病んでしまえり新しき風生れぬまま西田昌司か 田巻幸生
兎はねだっこされるがストレスとクイズの正解のように姉は 中本久美子
歩いている今があるなら才能さ向いていないと思えることも 吉岡昌俊
本田路津子のフォークソングを聴きながら生きてゆけると思つてた頃 豊島ゆきこ
来年も会えるだろうか直会でビールをついだ役員さんと 岡本 潤
錠剤を数へ揃へる夫の指無口に我はパンを食みをり 河上久子
晩夏にはあんパンが合うと思うとき湿った風が鼻腔に入る 真栄城玄太
四十度無理な外出控えよと予報士は告げる「歌会」もさうか 臼井 均
言っていることは分かるが明らかに優等生的少数意見 かがみゆみ
左手にシフトキー押し打つ()(カッコ)言いたきことは今は言うまい 倉谷節子
当日に突然休むことでしか職場から自分を守れなくなる 杜崎ひらく
君の耳の薄いところが透けている九月の夏を受け止めている 杜崎ひらく
トランプ氏とゼレンスキー氏の抱擁に眼のみが動く警護の若者 鈴木晶子
四歳児は今も確かに覚えあり原爆落ちしかの瞬間を 前田 豊
「来月も生きてお会いしましょう」でしめくくられる「ひきこもりラジオ」 橘 杢
知らぬ人にお前と言われ立ち竦む冷たく縮む胸腺がある 川上美須紀
行商のをんなが姉さんかぶりして重き生計(たつき)をホームにおろす 岡部かずみ

https://www.youtube.com/watch?v=vyiMMbUtavs

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