平和な時代を生きてきたんだこの俺に孤独死とふ選択肢(チヨイス)残れば
安楽死をとたのめば看護師西さんが朝つぱらから大笑ひせり
看護師の西さん美人にあらねどもてきぱきしやきしやき心和ます
黒田さんガンにはきつとかかりません西さん勘で我を励ます
手帳にぞ書きこみし短歌(うた)読みをれば写経ですか問はれてしまふ
四十七われは短歌を作り初(そ)め寺山修司は逝きにけるかも
十階の病窓(まど)から見ゆる朝の景酢色の天地を鴉が泳ぐ
瓶詰めにされた胆石(いし)どもレアアースに似た色放ちて自己主張せり
病院の一日(ひとひ)の案外短くて過去(すぎゆき)悔やめば未来(さき)は眠たし
捨て続け来し柵(しがらみ)の亡骸か点滴台をがらがらと牽く
病床の我を射的にする如く音なき音たて雨粒弾けつ
病棟の夜の黙(しじま)を置きざりとなして台風通過するらし
〝らむ〟といふ美(は)しき助動詞在ることを教へくれにき『一握の砂』
喧嘩して仲直りして喧嘩してけふ仲直りして永久(とは)に別れむ
朗らかに夫恋ふるひと職場にてりんだうの花束(はな)抱きて帰りぬ
幼児(をさなご)をオッサンと呼ぶ母の背におつさんすがりてコアラとなりぬ
嵯峨三智子生きる力のか繊くて濡れてもぬれても温きあめふる
私(わたくし)の会ひたいひとは私を知らぬまま皆病んで逝きたり
イヴの夜雪降ることの叶はずに行方知れずのサンタとトナカイ
あざやかに五才(いつつ)の頃の泣き顔を思ひ泛べてひとは逝くらむ
恐らくは荷風のごとく血を吐きて伏して死すらむ看取る者なく
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