№3693 「塔」七月号・陽の当たらない名歌選その1

      「塔」七月号・陽の当たらない名歌選その1

標準語話す人らを検査せよと陽性患者少なき地にて 黒瀬圭子
ウイルスの宿るという髪切りおとすくろぐろと散るこれは怒りだ 沼尻つた子
湿った土のにほひが子供のころのにほひ知らない子どもが怖かつたころの 小林真代

肺の奥まで春の匂いをためおんで目をつぶる日よ、鳥類のごと 徳重龍弥
島根県コロナ一号の女子高生その行動は逐一書かれ 小山美保子
あたらしき家に嵌めたり葉山から引き摺りて来し家具と我らを 髙野 岬
気がつけば奥歯を咬みしめ歩いてた介護に疎き人と話せば 中野敦子
マンモスを狩りたる者の顔をして妻は帰りぬマスクを掲げ 益田克行
阪急の岡本駅を思い出す独りで活き活き働いていた 矢澤麻子
身巡りを砂の落ちゆく静けさに深まりてゆく叔母の晩年 千名民時
亀の首水より伸びてこの春を確かめしのち水へと沈む 北辻千展
ゆく道に春の雨ふる忘れられていいのだ私が憶えているから 福西直美
大き盥あたまに落ちし三月尽 それでも好きになれぬ志村けん 沼尻つた子
じゃあまたね二週間後の約束がこんなに遠い春であること 小川さこ
齢(よわい)には歯の字があると歯医者言う二十本ある口覗きつつ 小澤京子
やまひだれに春つて漢字はないですかもうこの仕事やめていいですか 千葉優作
去りがたく人との別れは向こうから逢いたい旨はいつも我から 歌川 功
肉食のティラノサウルス嫌なやつ人間のごと群れて狩りする 佐原亜子
段々と嫌はれ慣れてゆくことをアボカドに刃をきれいに入れる 濱松哲朗
何だってできると思っていた頃のハンバーガーМピクルス抜きで 亀海夏子
凍蝶の翅ひそやかにはばたかす北風のそれは愛かもしれず 王生令子
この村に封じ込まれて六十余年花疲れなど贅沢だよネ 江見眞智子
夢を見つつ蹴りの練習してゐしかオーバーテーブルお茶の零れて 式田昭二
八重桜に春の奥行き死者にさえ沈黙をゆるさない国にいて 魚谷真梨子
現実ばかり手からこぼれてゆくようで夕刻無心に米研いでおり 魚谷真梨子

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