№3609 ラベンダー

      ラベンダー   黒田英雄

水鳥の羽音(おと)にも脅ゆる心地にて二度寝の朝の悪夢(ゆめ)にさ迷ふ

避難器具を避妊器具と聞き間違へるまだ陽に晒さあるる長月まひる

べつたりと網戸に張りつくごきぶりよ涼んでをるのかみみ太みたいに

トランプのモノローグ劇(プレイ)米中の貿易戦争脚本(シナリオ)通り

〝夕焼け小焼け〟十六時半に流れ初(そ)むまだ暑けれど新宿秋時間(ジユクシウタイム)

現世は荒野なるかな老爺にして滾る陽の下旗振りて立つ

旧作邦画(ビデオソフト)棚に並ぶをながめれば遺影のごとく背表紙の微笑(ゑ)む

ちちふさの巨きをみなの多けれど京マチ子とはちがふふくらみ

くそつたれくそつたれくそつたれくそつたれ!四度叫べば哀願となる

打ち捨てられし人造人間(モンスター)らの泣くやうな風鳴り聞こゆ颱風の夜

腰の肌あらはにさせしをみな見てつくづくと思(も)ふ黄色人種と

人界に向くゆふぞらも傷つきて剥げば血を噴く鰯雲たつ

工員と行員のちがひ思ひつつ頂の汗拭く刑事のごとく

職安通りを一気に駆け抜く22時翳りを帯びた8マンわれ

ラベンダーの香の湯に浸れど私(わたくし)は時をかけるジジィになれず

大林宣彦作品欲するとき精神(ココロ)はいつも弱り切つてる

低湿温に呼吸(いき)もたえだえ目醒むる朝性善説を信じたくなる

湿温度為替馬券に昼夜食記しし手帖年の瀬叙情す

勝つことに意味はあつたぞ一九六四(イチキューロクヨン)昭和五輪の聖火消え果つ

馬券者何年経っても馬連の一着三着眠りを奪ふ

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