№3575 羽蟻と野菊

      羽蟻と野菊      黒田英雄

梅雨明けの日にはかならずうな重を食みて直陽(ぢかび)に炙られ歩く

山深き上州の温泉その地でさへ凄まじき熱湿(ねつしよ)の歓迎浴びる

川遊びとてもぢやないが行きかねる新宿(ジュクの陽射しのなんてやさしも

ゆくりなき雷雨(あめ)弱まれば隙間よりカジカガヘルの声の漏れ来ぬ

山里で飲むウヰスキーのなにゆゑにぼとぼと徐徐に右肺(はい)圧(お)し始む

二十時を過ぎれば悲観の鬱に酔ひ昨夜につづき啄木を読む

目醒むればあはれ羽蟻の骸あり迷ひ来たりて畳に果てしや

〝生キテヰルソレダケデ君ハスバラシイ〟鴉重たく枝を離れる

病者にて汗をし恥ぢつ存問の君の唇受くる刹那に

俺といふ世界の創(キズ)が膿むやうに射(だ)しても射しても果てぬ体液

をみなの汗腐(くた)りし桃の香のごとき匂ひ放てりつつしみぶかく

ネットにて啄木中也と大喧嘩なさむとわれの大いなる夢

墜ちてゆく恐怖を思ふ上を向き歩かう唱ひし坂本九の

どんとぽつちいどんとぽつちいとつぶやいて鎬を削る極道(やくざ)もあらむ

東京に聖火灯りしあの日からどの年もただ四桁の数字

エスカレーター深くふかあく下降してスタアのごとく暖風(かぜ)受けとめる

孤独死の都となるは自明にて鴉の骸未だにわれ見ず

ああかつて白の時代ありきたしかに在りき白馬童子が跳んでゐつたよ

無能ぶりやつと曝せし森田健作(モリケン)の体育会系知事の限界

縦割りに動くこごしか考へぬ夕陽に走るだけの県知事

熱暑日に平和を粗末にするごとき令和五輪に噴く汗酷し

九度(くたび)観て九度号泣乾燥眼(ドライアイ)潤せ『野菊の如き君なりき』

民さんを演じし女優今何処(いづこ)野菊の如き有田紀子よ

なにもかも許せるやうな刻(とき)だからわれゆふぐれの邦画(キネマ)に涙す

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