№3543 藤井貢から加山雄三へ~昭和8年のラグビー~

 ラグビーワールドカップが盛況である。大変けっこうな事だ。ラグビーという事に関して思えば、日本映画の斬新さに通じるのである。戦前、日本映画には、松竹製作になる「若旦那シリーズ」というすごい人気シリーズがあった。戦後の東宝、「若大将シリーズ」は、これを踏襲した物である。若大将シリーズでは、田能久というすき焼き屋が主人公の家という設定であり、なぜか母親はおらず、父親有島一郎と、妹中真千子、恋人星由里子。翻って、戦前の若旦那シリーズも、同様の構造を持っている。こちらは、主人公は醤油屋の息子。妹役はああ、あの可憐なる水久保澄子。父親役は武田春労郎。恋人役は逢初夢子。

 驚くのは、旧作における第一作「大学の若旦那」で主人公がやっているスポーツが、ラグビーだということだ。諸君、これは昭和8年の映画であるのだぞ。この当時、ラグビーというスポーツが、そんなに日本国民に浸透していたとはとても思えない。いや、現代に於いても、ラグビーを身近なものに感じている層がどれほどいるだろうか。それを、「大学の若旦那」は、昭和8年において、少なくともエリートとその家族や恋人にとってはあって当たり前のスポーツとして描いているのだ。主人公若旦那こと藤井貢率いるラグビーチームの鮮やかな逆転劇をもって映画はクライマックスを迎える。つまり、モデルとなっているのは慶応義塾大学だ。それが、戦後の若大将シリーズの主演俳優、慶応出身の加山雄三へと引き継がれたということなのだろう。日本映画というのは、まさにその当時の、庶民が知るよしもない先端を取り入れて花開いた芸術だったのだなあ。若旦那シリーズと若大将シリーズ。この二シリーズの共通点を取り上げた評論を見た試しがない。悲しいことだ。水久保澄子、逢初夢子、そして中真千子、星由里子、この二組の女優たちの対比に、僕は深い思い入れを感じる。ラグビーという競技は、実に、昭和8年に描かれていたのだ。凄いね。

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