№3118 「塔」7月号・陽の当たらない名歌選1

      「塔」7月号・陽の当たらない名歌選1

ほろ酔いで歩く路地裏もう二度と歩かぬ道がまた増えてゆく 関口健一郎
死ぬときは「ああ死ぬ」と思うのだろうか二死満塁(ツーダンルフルベース)みたいに静か
繋ぐ手がないから拳握りしめ時々人を殴りたくなる 王生令子

ねこ道を通つて帰らう夕ぐれを保育所帰りの子の声がする 藤木直子
戦闘でなければ戦死といわないが勝手に祀るか靖国神社に 村松建彦
おそらくは死票にならむ名を書きぬその名ゆつくり筆圧かけて 立川目陽子
見ゆるのは被害者だけの風評被害なにせ加害者は風なのだから 鳥山かずみ
千切れ雲春の空にも懸かるときかたちさまざま春の死者たち 俵田ミツル
雨だれの落つるところに置かれてあり土に還れよと鉄の灰皿 西内絹枝
過酷なる宅急便の運転手地図を片手におにぎり食みぬ 山崎恵美子
四年目の東京そうかこの街も上手に春になりきれずにいる 紫野 春
考えてみるもう母に頼らない生き方を ゆるい袖をまくって 川上まなみ
母の部屋の三面鏡どの鏡に母の余白を生みだしており 川並二三子
デスマスクめく寝顔ひとつ横にあり伴侶もたぶんさう見てをらむ 河内幸子
ざんぶりと湯舟に入り息を吐く少しずつそっと諦めてゆく 中野敦子
西之原正明という人間に疲れています昨日も今日も 西之原正明
十字軍の末期のようなビジネスに変わり果てたなオリンピックよ 西海行灯
ストッキングかぶせしやうな金正男の声は映らず 生きてゐたこゑ 大河原陽子
ひらがなはやさしきかたち声そろへ浜辺の歌を仲間とうたふ 中野敏子
正(ジョン)が正を暗殺させる一族か名前の中に正を続けて 向山文昭
励ましに聞こえる朝も嘲笑に聞こえる宵も鵯 の声 杜野 泉
お病気とモニター見ながら言う医師の染みのようなる「お」の音を聞く 佐原亜子
染み多き母の着物よ 犬猫も鶏も子も同じに抱いて 青木朋子

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