№3081 短歌人五月号・会員欄秀歌選その144~産む性としての屈辱~

      「短歌人」五月号・会員欄秀歌選その144

春の嵐が窓たたく夜ひとりきり鳥の死骸を産む夢をみる 千葉みずほ
親戚が全滅したらしてもいいよね結婚 ・・・・・って本音過ぎるわ 国東杏蜜
折り目より裂けにし地図に哈爾浜のまち東西に分断さるる 松岡圭子

夜の溝(どぶ)にせつけん水の流れをり太極拳のふと道すがら 伊藤佳子
海へ行くごと階段をのぼり行き屋上で会う春の満月 千葉みずほ
大声で「りんごの唄」を唄う九十二の母デイサービスで 星 理和
夜に似たひとと並びて渡るとか海かと思ふ陸橋のゆれ かかり真魚
母の手がひとりひとりの顔を撫づ尋常小学校の卒業写真 古川陽子
戦争を知らない子供年老いてゆめかうつつかグンカのひびき 伊東一如
始まれば戦争なんだオリンピックを今更止めると誰も言えない 川村健二
八十五歳の夫の車でいつまでを通へる治療か覚めつつ思ふ 林 芙美子
対談に(笑)があって(怒)がない怒りをこらえて話しているのだ 小林惠四郎
日本を支えてきたる自負もなく酔い痴れてわれら霧におぼるる 北岡 晃
酔えばさう、いろんな人と出会へるし夕べはたしか李白と飲んだ たかだ牛造
方代さんとサンつける人に幽かなる優越感が漂っている 野上 卓
ハンカチにアイロンかける ちゃんとした人になれるような気がして 鈴掛 真
こんにちはと声かけあひてすれ違ふおそらく二度と会はない人と 桃生苑子
人生はたとえて序破急であるらしも髭剃る半夜はなぜかせつない 松岡修二
いつかまた語り合いたいお互いの夢と現実まぜこぜにして 円 弘子
のりたまを馬鹿にする人の話には頷く動きであくびを隠す 柳橋真紀子
雛あられ食みつつ想うそのかみの片平なぎさに似た恋がたき 芦田一子

     一首評

春の嵐が窓たたく夜ひとりきり鳥の死骸を産む夢をみる 千葉みずほ

 「産む」という行為は、本来的に死を孕んでいると思う。なんとなれば、人類の長い歴史において、健康な赤ん坊を産んで母子ともにすこやかに過す、なんぞはここ五十年ばかしのことであり、聞いた話によるとカナリアなどの家禽もしばしば、腹の中の卵が腐って死んでしまうことがあるそうな。つまり、生産するという行為は、その背後に数十倍の死というものに支えられて成立しているということだ。そして、あらかじめ子宮の中に胚胎された死というものを思い知ることにおいて、男性は所詮女性の比ではない。春の嵐が吹き荒ぶ、という萌える生と折れひしがれる死とのせめぎあう夜、みずからの女陰から死んだ鳥をずるりと産み出す夢を見るのは、毎月毎月死んだ卵子をトイレに流し続ける女性ならではの鋭い感性のなせるわざである。能天気に誕生や生命を礼賛し、生まれることの悲惨に目を向けない短歌の主流のなんと色褪せ、リアリティを欠いて見えることか。「産む性」として屈辱的に礼賛され、また自らも母性を売りにして恥じることのない女性歌人の中において、自らの股間から生まれ出るぬるりとした死を詠んだこの作者の肉体感覚に強烈なエロスをおぼえる。未生のもの、生成過程で死んだものはすべてエロチックである。毎晩食べている目玉焼きの白い皮膜のように。

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