№3077 波の音

      波の音      黒田英雄

深更に浸るはわれのみされどたれ?霊泉寺の湯にひとのけはひが

細々と生き存へしこの寺湯安らぎのみを求め旅人(ひと)訪ふ

曹洞宗の僧侶癒しし霊泉寺凍てつく北風(かぜ)の何故か懐かし

午前十時霊泉寺にて初詣掌(て)を合せるはわれと妻のみ

大晦(おほどし)のイーストサイドスクエアに『てんや』のみ一点営みなせり

掌(て)で頬をさすればかほを寄せて来る猫とをみなの傾ぐ仕草よ

膝の上(へ)に眠るみみ太を撫でながら「若者たち」など口遊むわれ

深くも浅き呼吸(いき)を感ずる毛物らの絆求めぬ寝顔の隠し

斑雪ぼんやり裸眼で見てゐたら不意に涙の溢れて止まず

水上勉をスイジョウベンと読みし友の顔を泛べて便所掃除す

無表情に厭ふことなく並びをる日本人らと異族のわれと

穏やかなインフレ希ふやそよぐ南風(かぜ)二万ドル台にダウ落ち着かせ

TVCMの歯科美容外科の医師の笑顔(かほ)うさん臭しと思はざらめや

野良着姿もきつと似合ふひとだらう佐々木希の色香野太し

肉親とは離(か)れて生くべし妻を抱くわれは歪に枯れず老いゆく

寄せ来れど返すことなき波の音聞きつつふいに眠りゆくらむ

逃げ処なき寂しさの胸突けば三十一(みそひと)文字の鎧纏はむ

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