№3073 世田谷文学館ライブラリーの無惨~縁側~

 改装のために長らく休館していた世田谷文学館を久々に訪ねた。僕は、リニューアルという言葉が大嫌いである。何事につけリニューアルを謳ったものがリニューアルしてロクなことになったためしがないからである。世田谷文学館、リニューアル後の「ライブラリー」に入った途端、私の目は点になった。まず、あの大きくてゆったりとした机が消失していた。代わりに、本棚の前に、本を読むための台も持たないパイプ椅子が七つ八つ、ぽつんと置かれているのみ。そして元来あったスペースの半分は、仕切りもないところに子どものためのお遊戯室。VHSの視聴室もなくなっていた。これは大事な空間だった。VHS化された日本映画は少なく、DVD化されたものとなるとさらに少ない。数少ないVHS化のみがされた成瀬巳喜男の佳作「驟雨」も、豊田四郎の戦前の傑作「泣き蟲小僧」も、恩地日出夫の「伊豆の踊子」など、ほかほか、あまたの日本映画の傑作がDVD化されていないため、このライブラリーからVHSが消えたことによって、これらの傑作はもう観られなくなった。

 僕が係の男性に、なぜ視聴室を無くしたのかと訊いたら、「もうVHSの時代じゃないですからね」とぬかしやがった。そういう問題じゃないだろう。さらに僕は、本をじっくり読みたいので机のある部屋はないかと訊ねたのだが、「三階に閲覧室がある」という。三階に行ってみたら、確かに閲覧室はあった。あったが、事務所の脇の狭い部屋で、机はたったの一つ。仕方なく白い壁を前にして読書したのである。以前は、一階のライブラリー室で、読書で疲れた目を窓の外にやり、青々とした木々のそよぎにその疲れを癒したものである。今は最低。まるで、独房の読書だ。それでも私は一時間三十分、キネマ旬報のバックナンバーを読んだ。このライブラリーで過ごす時間を楽しみにしている人はたくさんいたと思う。私は月一回しか行かなかったが、それでも、いつも中高年の方々が熱心に読書をしておられた。それが改装後、この、まるで来館者を拒むがごとき仕様を見て唖然としていたことは想像にかたくない。一階のロビーに人っこ一人いないことに寒々しい感触を覚えた。受付も以前は二人いたのに、今はたった一人、所在なげにぽけっとしておるだけである。このライブラリーは以前は、「心の花」を始めとしてさまざまな結社の結社誌や、短歌総合誌も置いてあった。全部なくなっている。世田谷文学館という名前に対して恥ずかしいと思わないのか。どこの世界に、机のない「ライブラリー」があっていいというのか。しかも、敷居もない半分がガキのための遊び場とはどういう了見か。区の小役人どもはどのような考えで、このようなリニューアルをしたというのか。想像するに、今、国策は全力で「老人」や「暇人」の排除にかかっており、国家にとって何の益もなさぬその手の層の逃避場所であるところの教養の宮殿には一円の予算も落とさないという方針なのであろう。文化財を軽んじる国家というものは早晩弱体化し、どれだけ金や軍事力があっても衰亡していくということをご存知ない馬鹿小役人どもによる亡国に拍車がかかるわけである。

 世田谷文学館は、短歌賞や俳句賞を主宰しているが、その中心的審査委員長を務める佐々木幸綱よ、もうこんなとこの選者はやめなさい。このセンターのライブラリーは文学を完全に馬鹿にしている。佐々木幸綱に文学的良心があるなら、くだらない自治体主催の賞に付き合う必要はないはずだ。

 ドタマに来た私は、このまま帰るのも悔しいと思い、以前から行ってみたいと思っていた蘆花公園に足を向けてみた。てくてく歩いて、蘆花恒春薗に辿り着いた。僕は、徳富蘆花という人物に興味はなかったが、「八重の桜」を見て、徳富家の蘇峰と蘆花兄弟が登場していたので関心を持った。そして行ってみたその公園は、素晴らしいところだった。青々と若葉の茂る敷地内に家族連れがのんびりと寛いでいた。僕は、公園内にある蘆花の家を訪ねてみた。まさに、懐かしい日本の家屋そのものであった。長い縁側を見つめ、僕は思わず立ちすくんだ。僕の目の前に、三毛猫のミケちゃんが寝そべり、幼いころの断片的な回想が僕の脳裏をよぎって胸を切なくさせた。屋根が低い。昔の人の身長が低かったからであろう。世田谷文学館の改装への怒りの癒される蘆花亭であった。縁側に足を踏み入れたのは何十年ぶりだろうか。縁側こそが、日本の家族を象徴する場所だとしみじみと思った。三毛猫ミケよ、幼き日の私を慰めてくれて、本当にありがとう。お蔭で今日の私の歩数は10906歩である。

この記事へのコメント

  • 草餅みどり

    そのVHSのビデオはもしかして廃棄しちゃったんでしょうか?
    本当にどうしようもないですね。
    2017年04月29日 09:58
  • ひでお

    もう最低。どこが文学館かと怒鳴りたくなりました。この問題は、今後も追及して行こうと思います。
    2017年04月29日 23:27