№3070 「塔」四月号・陽の当たらない名歌選2

       「塔」四月号・陽の当たらない名歌選2

朝の胸は油断しているやわやわと誰にも触られなくて自由だ 中井スピカ
守りたいものが僅かであるほどにていねいに塗るハンドクリーム 小松 岬
口にした途端に凍るほんたうの、人間は自己責任で死ぬ 濱松哲朗

志士たちの姿見ていた老松とハイタッチして母と散歩す 白 梅
あの人が両性愛者と知ったとき二十回噛む炊きたてご飯 山下好美
君と吾の呼吸と腰が重なりて駆け昇りゆく空虚に向かって 武田夏紀
手術待つ病窓からの大都会小さく速く動いておりぬ 石川泊子
ふっくらと立ちし羽毛の息絶えてのちはしずかにしずみ痩せたり 谷口美生
何度でも怖がり何度でも見たいという子にとりチャルメラは異界のくるま 丸本ふみ
長芋の唐揚げの前で交わさるるとても小さき、小さき乾杯 石松 佳
言ひよどむ仕草のうちにわれはいま他人であると気づかされたり 濱松哲郎
むすび目が風にほどけていくように疎遠になっていきし人たち 中本久美子
お母さんは狂ったんだよ知ってるか黄色い石鹸かじるほどにね 長田尚子
背泳ぎで入道雲を眺めたりどうでもいいかとふと思いたり 高橋武司
日本の男の貌のしずけさよ芯のありたる宮口精二 小山美保子
目の前を駆け抜けるときランナーの大腿直筋より湯気上がる 岡村圭子
次はいつ帰ってくるのと問う祖母のいつまでも孫であろうと思う 長月 優
在庫なし古本もなし蔵書なし探しています歌集「駅へ」を みちくさ
人の名前思ひ出せない昼日中猫のしつぽの縞目そよめく 祐徳美惠子

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