№2868「塔」4月号・陽の当たらない名歌選2~粋な歌の哀しみ~

      「塔」4月号・陽の当たらない名歌選

夢にこし夫は再婚告げにけり しばし挽歌は詠まずにおかん 本嶋美代子
好きだった人も、わたしを好きだった人も来なくて同窓会は 大坂瑞貴
福祉的失恋をした夕暮れの蛍光灯はいつもうるさい 中村ユキ

寂しさのわかる目を持つ息子ゆえわからぬ振りをしてふざけおり 中山悦子
そこだけが美内すずえの絵のようでこまどり姉妹のまつげが怖い 上澄 眠
密会を臨時会議と書く我は歴史修正主義者でありぬ 新谷休呆
元日に東大寺にておみくじを引けば夫も吾も凶なり 山上秋恵
五年経て五年老いたるわれを見き運転免許更新終えて 垣野俊一郎
妹に赤信号を渡らせた人生最初の悪意の記憶 竹田伊波礼
喰うものと喰われるものの平衡を思い出させるキャロルの目つき 橋本ゆみこ
吹上浜に来てゐたこと誰も知らぬ曇り陽のした小舟が一艘 一宮雅子
玄関に結露の錠のつめたかり死者は睫をあさ開くべし 東 勝臣
子のゐない次男夫婦と三人でシヤンパン抜いて静かなるイブ 矢野征二郎
まとうもの剥がして水に身を放つ 少女は野太き金魚となりて 福西直美
少しだけ幸せと思う少しなら誰も取り上げたりしないだろう 福西直美
ゆきふれば龍の刺青肩にもつ伏し目がちなる少女をおもふ 斎藤雅也
背の高いはうから順に寡黙なり男ら三人肉を焼きつつ 小林真代
かどに立ち母の帰りを待ちし頃 思ひ出すから夕焼けが好き 鯵本ミツ子
除夜の町に雨音消して響きたり艦の汽笛を今年も聞きぬ 鯵本ミツ子
この柱にもたれてズボンを履きし夫思い出しつつ柱拭きおり 吉岡のぶゑ

夢にこし夫は再婚告げにけり しばし挽歌は詠まずにおかん 本嶋美代子

 実に粋な歌だ。普通は、現世に生き残った妻に対して、あの世から夫が「再婚しないでくれ」と言うのがパターンなのだが、この歌は、あの世に行った夫が再婚したと言う。俺は爆笑した。そう、こういう発想の転換が短歌には必要なのだ。あの世で再婚した夫を思い、挽歌は詠まないと作者は言う。それだけ作者のユーモアと、それに裏打ちされた、夫を亡くした悲しみが読者の胸を打つ。秀歌だ。

好きだった人も、わたしを好きだった人も来なくて同窓会は 大坂瑞貴

 この歌も好きだなあ。好きだった人と、自分を好きだった人、作者にとって小さなドラマだ。そして、何らかの会話の花が咲く期待をもって作者は同窓会に行ったのだろう。しかし、二人ともいなかった。それなりに楽しい同窓会であったはずだが、作者にとってのぽかんとした穴は埋められない。人生とはそういうものなのだ。期待していたことに裏切られて、それでもなお小さな喜びを見つけて生きようとする。それが人生というものだ。

福祉的失恋をした夕暮れの蛍光灯はいつもうるさい 中村ユキ

 福祉的失恋という言葉が面白い。これは一体なんだろう。たとえば、相手の男性から「君は僕には勿体無いよ」とか、「君には僕なんかよりもっといい人がいるよ」とか、いかにもこちらに花を持たせたかのような断られかたを言うのだろうか。だとしたら作者は、「ふざけんなボケ」と思っているであろう。蛍光灯は、照らしてくれてありがたい存在だが、福祉的失恋をした作者にとってその音がうるさいというのが実によくわかる。まるで男の言い訳のような蛍光灯のうるささだと作者は感じたのだろう。福祉的失恋、この言葉が頭から離れない。面白い表現だ。

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