№2758 「塔」9月号・陽の当たらない名歌選2

      「塔」9月号・陽の当たらない名歌選2

スーパーで半額のおかず買ひしのち石岡道子の部屋の明かり見ゆ 大坂瑞貴
父親とお前の寝顔瓜ふたつと我しか知らぬ鉛抱けり 石原夏子
友達はみんなポケットの中にいて文字でやりとりするだけの仲 大木はち

舌圧子を押し戻すとき力ある肉色の舌みえかくれする 穂積みづほ
咳の出る風邪うつされたことを知るぐんぐん株価の上がりゆく午後 石橋泰奈
ああめんど。学校めんど。朝晩をつぶやく子どもがいるこの六月。 宇梶晶子
握り飯ほおばりにけり葬儀屋が火葬のひまに汗を拭きつつ 相馬好子
地面にも地面の恋があるでしょう なるべくかるき靴でゆきます 鈴木四季
風合いを指は欲りつつ人を思(も)う榛原の便箋えらびいるとき 中田明子 
君の手紙息せききって封を切る返却された合鍵ぽとり 王生令子
仮眠室のほのぐらい中風入れるもうなつかしい昨日の近江 大喜多秀起
思い切り深呼吸して素に戻る一生分の嘘使い果たす 夏川ゆう
噴水を背にし眼鏡を拭く君に我の知らない鋭き眼見ゆ ばいんぐりん
長藤の重たく垂るる夏の日をおかれしままの炬燵に入りぬ 山口小夜子
水たまりに映りこむ空深くして視線はぐらりと落下してゆく 佐原亜子
空腹と吐き気のちがいがわからない日がある空は見あげずに待つ 上澄 眠
お迎えのワゴンの窓より老人は小さく手を振る宮様のように 朝日みき
二時間の予約を過ぎた診察で主治医は語る私の短歌を 弟子丸直美
職安のパソコン画面に神と打ち検索するも該当はなく 西之原正明
ボランティアのバンドが奏でる〝ふるさと〟に老人達の表情はなく 森 富子
二次会に「もういぬるんか」ふる里の方言淋し同窓会果つ 川井典子
自転車の坊さん曲たりたる方を見やるも暗き路地つづくだけ 谷口かず子
寝る場所と食べ物さがし戦争中母と歩きし知覧、人吉 山崎一幸
うなづきは人のぬくもり伝えくる雨合羽着たままで話さう 田中律子
平凡にこそ死にたけれと詠みゐしをよもや誤嚥性窒息死とは 藤 かをり
水滴をはらってしまうかのように後ろ向きにごめんねと言う 真 魚

この記事へのコメント

  • kei

    長藤の重たく垂るる夏の日をおかれしままの炬燵に入りぬ 山口小夜子
    何故か懐かしい昭和の匂い。こんな日があった。そんな気がします。
    静かで孤独な、物憂げで、まあ、気兼ねはない、そんな、女の一人居のひっそりとした佇まいを私は子供でしたが、知っていた、そんな気がします。
    2015年10月01日 09:35
  • ひでお

    秀逸なコメントありがとうございます。今後とも名歌選をよろしくお願いします。会員の歌を選んでアップしていること自体が僕の自己主張なのです。これからも、いい歌人と思える人をどんどんピックアップしていきたいと思います。
    2015年10月01日 22:41

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